孤高の専門学校校長

感じるままに言いたい放題

T君の恋 1

 今私は高校生を相手にした仕事をしている。時代と共に高校生像も変化したが、今日は私の高校時代の同級生であるT君の話をする。もう随分前のことだけど。

 高校時代の私の友達とはいまだに付き合いがある。当時は全く馬鹿みたいなことばかりして、なんら役に立つことは学ばなかったが、財産として一生の友を得た。専門学校に進んだのは私だけで、他は全員が大学に進んだ。その中でもT君(私たちはTピンと呼んだ)は冗談も口にしないし嘘や人の悪口は絶対言ったりしない実直で不器用な男だった。誰かを好きになったら一途にその子だけを見つめ、ろくに告白などできないくせに、その子には彼がいるということがわかると一晩中泣いたりした。

 高校卒業後も私たちの付き合いは断続的に続いたが、私たちが成人を迎えた頃だろうか、ある日のことO君から相談があった。それはTピンの女性関係に関するものだった。Tピンは極々真面目な性格だったから女の子と話をする時さえ緊張していたし、決まった女の子と恋人同士になったこともなく、当然女性との経験がないからなんとかしてあげたいというものだった。しかし、だからといってどうしていいのかわからない。そこでO君をリーダーに、私たちは真剣に作戦を立てた。そして私たちが出した答えは、性に奔放そうな女の子をナンパして、Tピンとの関係を頼み込むという、倫理に反する非人道的犯罪計画であった(笑)  そんなことをやってる私たちだって半分子供である。その方面に長けているやつなどいる訳はないのだが、このままだとTピンはずっとこのままその経験が持てないのではないかというのが全員の共通認識であった。

 何はともあれO君は行動を開始した。そしてしばらく経ったある日、ターゲットが見つかって運命の決行日は週末と決まったと連絡があり、事態はにわかに緊迫度を増してきた。解決しなければならないことは色々あったが、最大の問題はとにかく金がないことだ。そこで考えたのが、知り合いから車を借り、O君、T②君(頭文字がTのもう1人)、Tピンとナンパした女の子の4人が乗って近所の河川敷まで行って、車にTピンと女の子だけを残して後はよろしく!と、O君とT②君はその場から消えるいう完璧な作戦だ(笑)

 さてそれから幾ばくかの時間が経ち、頃合いを待っていたO君たちが車に戻ると女の子は車にはいなかった。2人が「どうやった?」と息を弾ませ問う。しかしTピンは所在無さげに「あのな、、、」と切り出した。「あの子な、オカマやってん」「え?」2人が驚いたのは言うまでもない。その犠牲心旺盛な協力者(笑)は、美人とは言い難いが全く女性にしか見えなかったからだ。改めて2人がTピンに「途中で気付かんかったんか?」と訊いた。しかしTピンはやはり誠実な男である。「気付いたけどな、止めたら失礼やからこのまま、もうええか?って思ってん」、、、。そんなこんなでTピンの初めての経験の相手は、戸籍上の性別では女性ではなかったという、おかしいような悲しいような話である。