孤高の専門学校校長

感じるままに言いたい放題

尊厳死と安楽死

 ALSの女性患者を死亡させたとして、京都府警が嘱託殺人容疑で医師2人を逮捕した。

 しかし手を尽くしても治る可能性がなく、早晩死に至ることが確実で、苦痛と絶望に苛まれて生きる人が死を望んだ時、誰がその考えが間違いであると否定できるだろう。医師は病を治すのが仕事だ。よって医を尽くしてもなお快復の見込みがない場合には、その出番は終わる。そこから先は現生に終わりを告げようとする人の意向と、何より人としての尊厳が優先されなければならない筈だ。

 「あなたはもうしばらくしたら死にますよ」と言われた時の私個人の理想を考えてみる。あの国に行きたい、高級な料理を食べたい、あの人に会いたい、あのバンドのライブを観たい、、、なのか? あれ? 答えを考えても何も特別なことは思いつかない。そのためだけに何も要らないなぁと私個人としては思う。いつもの顔ぶれでいつもの日常のまま、最期の時を迎えたい。

 しかしまもなく死出の旅路に出る人は、こんなのんびりとしたことは考えられまい。なぜならこの先命尽きるまでの間、痛みをはじめとする身体症状、またこのまま生を長らえる虚しさや、周囲への申し訳なさという、何重苦にも及ぶ、神が人間に与えた最後の試練が待っているからだ。余命の宣告を受け、なお生きる勇気を持てるならそれは幸せなのだろうと思うが、それらは全てその地獄のような試練を克服できての話だ。

 冒頭の医師は責められない。患者の気持ちを受け入れた優しさはむしろ尊敬に値すると思う。患者の苦悩を考慮せず、ただ機械的に延命処置をする医者よりも、はるかに人間的なこの2人の医師をきっかけにこの議論が公平に冷静に行われることを心から望むとともに、愛と勇気あふれるこの医師たちには心から減刑を望みたい。

 私は安楽死に賛成する。死をも超える苦しさを感じながらただ苦行の如く生をつないだ末の死に、人としての尊厳はあるはずがないではないか。