孤高の専門学校校長

感じるままに言いたい放題

歯は大事

 歯医者さんは怖い。私は昔から歯性が悪く、思い出せば中学時分から歯医者には恨みや憎しみこそあれ、全くいい思い出がない。唯一良い思い出があるとすれば美容師として働き出して間もない頃、友達に保険を借りてかかった(これは犯罪行為である)歯医者で美しい歯科衛生士さんが、しかめる私を見て「痛い?ゴメンね」と優しい目で心配そうに聞いてもらったことくらいだ。それ以外ではことごとく泣きたくなるような思いしかしていない。特に辛いのはあの根治と呼ばれる、歯の中の深いところまで長い針のような器具で何度も何度も突き刺してこねくり回す悪魔のような所業だ。そんなナチスにも匹敵する行為を行う際にも昔は麻酔をしなかった。針を突き刺すたびに脳天をつんざくような激痛を伴う蛮行は、医療の名を騙ったサディスティックな欲求を満たそうとする歯科医のひそかな楽しみ以外の何者でもない。そしてその記憶は数十年経った今も心的外傷として私の精神に暗い影を落としている(笑) 

 放っておくと痛い思いをするという流れはどんな病でも共通であろうが、歯はその中でも典型的かつわかりやすい例だ。あの痛みは二度とゴメンだと思っていたのだけれど、ここ数年、過去に不摂生した歯に異変が起き始めた。むかぁしむかし(高校生時代〜20代前半)に根治をしていた歯の内の数本が、根元の方で割れたり炎症を起こしたりしていたのだ。

 自宅のすぐ向かいに歯医者ができ、若い歯科医が数名常駐して患者を担当する。その日に担当してくれた若い女性歯科医は言った。「入れ歯かインプラントですねー」と。・・・入れ歯。なんと響きの悪い言葉だろうか。子供の頃に読んだマンガやアニメの中に登場したジイさんの後頭部をはたいたら、総入れ歯が前にビューンと飛んで出る、みたいなイメージか、、、辛い(笑)  私は後何十年も生きることを念頭に、インプラントを植立することを決意したのだった。

 その日がやってきた。いつもとは違う奥まった椅子に案内され、ほどなく私はタオルで目隠しをされた。もしかしたら私が見えていないのを良いことに、歯科医師や看護師はほくそ笑んでいるのかもしれない(笑)  麻酔を何本も打ち、ガチャガチャとトレーの上で器具が鳴る。さぁいよいよだ。胸が高鳴る。院長が何かを言ってるが、頭に入らない(笑)  目隠しをされ、全ての自由を奪われている私は今それどころではない。

 とうとうそれは始まった。痛みはない。痛みはないが、何をしているのかは感触でわかる。ドリルで穴を空けている、その穴を深いところまで掘り進む。血の匂いがする。力がかかり、ウィーンという音がゴリゴリという音に変わる。きっと顎の骨にまで穴が達しているのだろう。幾度かにわたりそのウィーンとゴリゴリを繰り返した。匂いと共に血の味もする。30分程経っただろうか、2人がかりの施術は終わり、「口をすすいで下さい」という声に導かれその通りにすると、小さな排水口の周りは真っ赤になった。唇の感覚がなく、含んだ水が志村けんさんのギャグのように口から溢れ出てしまう。

 歯は大事である。手入れを怠ると将来入れ歯になる。それが嫌ならインプラントなんだけど、わかってはいたがインプラントは高い。