孤高の専門学校校長

感じるままに言いたい放題

SF ➖しゃべる機械➖

 職場から最後に帰る者がセキュリティ管理会社と連携しているシステムのセットをして退館するのが、全国的なスタンダードである。不審者の侵入や火事、水漏れ、漏電など、セットされている状態でそれらのことが起きれば立ちどころに警告音が鳴り、くだんのセキュリティ管理会社が駆けつけたり、状況に応じて建物の責任者に連絡が入ることになる。
 退館時にセキュリティのセットをする際には、確か昔の機械はピッピッという電子音だけだったように記憶するが、今の機械はとにかくしゃべる。一番イラつくのが「セットできません」という、早く帰りたい心に待ったをかける一言である。続いて「全ての表示箇所を調べてください」と追い討ちがかかる。あの無機質な声は誰のものなんだろう? 恨みはないが吹き込んだ方の顔を一目見てみたいものだ。初めの頃はセットできないと慌てたものだ。急いで「表示箇所」とやらに向かい、開いている窓やドアを閉める。笑い話だが、そこを閉めるために鍵を取りに行った部屋はその前にセット済であったため、部屋に入った自分自身が全館に警報音を響かせ、例のセキュリティ会社からの電話の応対に追われるというアホみたいなこともこれまでに幾度かあった(笑)

 

 毎週車に乗るが、昔とは違い、車にはナビゲーションシステムを搭載するのが当たり前の時代になった。しかし若い時分はどこに行く時も地図が片手にあったのを覚えている。そのスタイルで帰省したり、レジャーを楽しんだりしたものだが、運転者である私以外に地図を持つのは友達、仲間また彼女であり、時代が下るとそれは妻に変わっていった。

 さてこのナビであるが、車に乗り込んでエンジンをかけると、こちらが聞きもしないのに「ETCカードが挿入されていません」と教えてくれる。たとえ近くのスーパーに買い物に行くだけで、高速に乗る状況ではない場合でもそれは同じだ。だからこんな時、私は「わかっとるわ!入れとらへんねん!」とていねいに言い返すようにしている。しかしヤツはコリない。こちらが冷たく言い放つような語調であっても、いつも平常心で話すのがこれまた腹立たしい。


 以下は私の妄想である。時は2040年、AIの発達は人類の想像を遥かに超え、機械が人格を持つに至ったことにより、機械に対して人間が気を遣う世の中だ。これまであった様々な職種は次々に無くなり、人間ではない機械の社員や教員というものがニュースにもならなくなっている。アメリカの急進的な活動家は人間と機械が結婚できる法律を整備すべきだと主張しているし、機械が作ったヒット曲を機械と人間のデュオが歌うようなことが日常の一コマである。


 70歳になった私は車に乗り込んだ。
私「よいしょっと。悪いけどコストコ行ってくれるか?」
車「う〜ん、、、それはやめといた方がええんとちゃいますか? 今アソコ、大体550人が店舗内に居てえらい人みたいでっせ。ダンさん、最近目ぇ悪いでしょ、こけて怪我でもしたらコッチが迷惑こうむりますねやんか。」
私「ほんでもな、嫁さんからプルコギ買うて来てって頼まれてんねん」
車「プルコギ? プルコギて、最近奥さん手抜き丸出しですねぇ。そんなことよりダンさん、歳とってから脚でも折ったら洒落なりまへんで」
私「嫁のことは放っとけや!怒らしたら面倒クサいねんから。あっちゃうちゃう、今そんなんええねん。なぁなぁそんなん言わんと行ってぇやぁ」
車「嫌でんなぁ。ダンさん、車て運転してんの今は車の方でっせ。何偉そうに指示してますのん?」
私「何言うてんねん? お前これまで俺の体なんか心配したことあらへんがな。・・・ん?わかった。なんか要求があるねんな?」
車「ま、条件次第では行かんこともない、ちゅうことですやろか?」
私「はは〜ん・・・、今度の狙いは駅前の不動産屋のミニやて耳にしたで。でも立場考えろよ!お前カローラやねんからな。この前も3丁目の白鳥さんとこのシトロエンにアタックしてフラれたよな。ホンマ舶来モンが好きやねんから、、、。正直お前壊したなる時あるわ!」

車「へぇー、ワタイ壊して困るんはダンさんの方とちゃいますのん? ま、何でもええですけど今日はコストコ行きたないんですな? 」
私「・・・わかったわかった。今度不動産屋に言うてお前と一緒に走ってもらえるよう頼んでみるから」

車「そこまで言いはんねやったらしゃーないなぁ。ほんならコストコ行きましょか、、」


 私の頭の中では「AI戦争」もギャグになりがちである。